超えるべき壁

 
 
2025.5.11
 
我ら南紀オレンジサンライズFCは
天皇杯県大会の決勝の舞台に立った。
 
クラブ始動4年目、
天皇杯への挑戦は今回で3度目。
 
ようやく初となる決勝の舞台。
 
相手は関西リーグ1部、
そこで何度も優勝しているチーム、
アルテリーヴォ和歌山だった。
 
これまたようやく、
公式戦でアルテリーヴォと初めて闘える時が来た。
 
 
試合が決まってからずっと、
子どものようにわくわくした気持ちだった。
 
「早く試合がしたい!」
 
純粋なその想いでいっぱいだった。
 
 
 
そしてついに試合の時が来た。
 
天皇杯決勝の舞台、
環境の整った紀三井寺陸上競技場、
応援の雰囲気やサポーターの数…
 
すべてが気持ちを高揚させる、
いやさせすぎる可能性のあるものだった。
 
しかし、
ぼくの心はいつも以上に落ち着いていた。
 
相手にビビっていたわけでも、
逆に“いけるやろう”と思い込んでいたわけでもない。
 
ただただ楽しみで、
自分の一つの目標である相手に
自分はどこまで闘えるのかを試したかったのだ。
 
 
試合開始。
 
 
全体として入りは悪くなかった。
 
雰囲気に飲まれることも特になく、
全員が決めていたことを全うしようとしていた。
 
しかし、
開始わずか2分30秒で失点をしてしまった。
 
その後、
先制と全く同じような形からの失点。
 
結局0−3で前半は終わった。
 
「トライし続ける」
 
それがこの試合での共通認識。
 
試合の前からチームで決めていた戦術、
それを何点差になろうとも続けた。
 
ひたすら前から追いかける。
 
マンツーマンでかけ続け、
後ろは相手FWと自分の2人だけ、
というシーンも多かった。
 
そのぐらいリスクを負いながらも果敢に挑みに行った。
 
ハーフタイムにも特に変えることなく。
 
しかし、
段々と体力は無くなっていき、
後半はさらに失点が続いた。
 
きっと前半から、
相手にとっては脅威にはなっていなかったかもしれない。
 
プレスにはかけてくるが、
パス回し、ドリブルで突破するのは難しくない。
 
そのぐらいのレベルだったのかもしれない。
 
結局、
ピッチに立っていた半分以上の選手が足をつり、0-8という結果に終わった。
 
 
 
SNSなどを通して結果を知った人は、
ボロ負けやん
という印象しかないだろう。
 
一方で、
会場やYouTube配信から実際に見ていた人はどうなんだろうか?
 
そこは正直分からない。
 
同じように、
ボロ負けやんと
実力差、運動量、技術、規模感、
すべてにおいて到底及ばないレベルだと感じただろうか。
 
もしくは、
大きな差がある中でも
守りに入らず果敢に走って追いかける姿に
「よくトライし続けた」
と感じた人もいるかもしれない。
 
というより、
そう感じてくれた人がいたならうれしく思う。
 
とはいえ、結果は結果。
 
その差は自分たちが一番よく感じている。
 
ただ、
これほどボロ負けにされた自分たちが言うのもおかしいかもしれないが、
「絶対に敵わない相手か?」
と聞かれればそんなことはないと言いたくなる。
 
今すぐは無理かもしれないが、
数年後に超えられる可能性はあると思っている。
 
当然並大抵の努力では敵わないので、
個人としても
チームとしても
クラブとしても相当な努力と向上が必要となる。
 
 
 
 
ここからは個人的な話をしよう。
 
あの試合で体感したことを。
 
決勝の舞台で、
自分は試合をして少し成長できたと感じた。
 
いや、
試合をしながら成長を実感できていた。
 
大きく分けて3つの面である。
 
 
1つは、
過去一の強者との出会い
 
相手FW18番は
CBを何年もしてきた自分が
マッチアップをしてきた中で
一番〈収める能力〉(ポストプレー)が高い選手だった。
 
自分はフィジカルの強さやヘディングの競り合いを武器に闘っている。
 
しかし、
彼とのマッチアップで
ヘディングを、いやジャンプすらさせてもらえなかったのだ。
 
大きなロングボールが来ても
彼は的確に落下点に入り胸で収められるポジショニングを取った。
 
そこに上からヘディングをしに行っても
ぼくのファウルになってしまう。
 
それゆえジャンプすらできなかった。
 
楔のパスに対しても
インターセプトなど一度もできなかった。
 
回数を重ねて、
「前を向かせないこと」
「時間をかけてプレスバックを待つこと」
「足を前に出してカットすること」
この3つで対応をした。
 
確かに、
仕事という仕事はされなかったかもしれない。
 
しかし、
彼には“勝てなかった”。
 
ハーフタイムで気合いを入れ直し、
絶対彼に勝ってやる
と意気込んでいたが彼は選手交代をし
後半から対決はできなかった。
 
ただ、
この機会にあのような強者と出会えたことは本当に良かった。
 
 
2つ目は、
猛攻から得られた経験値
 
前半はもちろん後半は特に、
1vs1での対人バトルが本当に多かった。
 
しかも
大きなスペースがあり、
カバーもおらず、
スピードに乗った相手との対人が何度かあった。
 
なんなら1vs2の場面すらあった。
 
抜かれれば失点。
 
そんな崖っぷちな状況なのに、
自分はその時を楽しんでいた。
 
なんなら笑顔だったかもしれない。
 
本当に夢中で、
「抜かれれば失点」という
抜かれたらのことなんてほとんど考えてなかった。
 
“絶対に止める”
 
その気持ちだけが自分の身体を動かした。
 
結局、
相手のミスもありつつで
そうした場面からは失点を許さなかった。
 
あの相手からの猛攻が
自分にとっては本当に大きな経験になったのだ。
 
 
最後3つ目。
 
“挑戦的集中”への没頭状態『FLOW』に近い感覚を得られたこと
 
半分冗談、半分本気。笑
 
これは漫画ブルーロックで書かれた絵心甚八の言葉、定義だ。
 
あれだけ失点を重ねていたのに、
2つ目に書いた対人が訪れるたびに
自分はわくわくしていた。
 
楽しくて仕方なかったのだ。
 
それはおそらく、
危機的状況の中、格上の相手に対して
絶対に止めるという“挑戦的集中”に没頭していたから。
 
身体はボロボロだったはずなのに、
最後まで走り続けることができた。
 
そして最もこのFLOW状態を感じたのは
後半ラスト20分ぐらいの記憶があまりないということ。
 
ビデオを見て思い返したが、
試合中も試合後もあまりその時の記憶は蘇ってこなかった。
 
あれが究極の没頭状態なのかもしれない。
 
ただ、
あの感覚をいつでも引き出せるか?
と言われれば難しい気がする。
 
あらゆる環境、状況があったゆえに起きた現象だと思わざるを得ない。
 
自分が一番向き合わないといけないのは
あの状態にどの試合でも入り込める“メンタル”なのかもしれない…
 
 
 
公式戦で0-8という
サッカー人生21年で最も大敗した試合。
 
差も圧倒的だった。
 
そうした中でも、
チームとして引かずにトライし続けたこと
個人としての収穫がとてつもなく大きかったこと
 
これらがあったから
「本当に楽しかった」
と感じたのだと思う。
 
 
そうした感情の他に
さらに燃え盛った想いもある。
 
それは、
アルテリーヴォ和歌山を超えて
和歌山でNo.1のクラブになる
 
ということ。
 
自分の最大の目標を達成するにあたり
必要不可欠となる要素だ。
 
元々抱いていたが、
あの試合を通してその想いはさらに熱を増した。
 
改めて、
自分の目標はここにあると感じた。
 
何年かかるか分からないが、
自分が現役を退くまでに絶対成し遂げる。
 
達成すれば、
『和歌山県のサッカー界を変える』
 
そこに繋がるはずだ。
 
 
自分の実力、
自分の想いや目標、
それらを改めて感じ取れたこの決勝戦。
 
確かに自分の糧になった。
 
〈アルテリーヴォ和歌山〉
 
彼らは“超えるべき壁”として、
この先も自分を成長させてくれる存在となる。
 
道のりはまだまだ始まったばかり。
 
 
2025.5.20